経営環境の変化、後継者不在、事業の不振など、様々な理由により会社の閉鎖を検討される経営者の方も少なくありません。会社の閉鎖には「解散・清算」「休眠」「M&A」など複数の選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。本記事では、会社閉鎖の方法と手続きについて詳しく解説します。
会社を閉鎖する4つの方法
- ✔ 解散・清算(通常清算)
- ✔ 特別清算
- ✔ 破産手続き
- ✔ 休眠会社化
会社の閉鎖方法は、会社の財務状況、債務の有無、今後の事業再開の可能性などによって選択すべき方法が異なります。債務超過でない場合は通常清算、債務超過の場合は特別清算や破産手続き、一時的な事業停止の場合は休眠会社化を選択することが一般的です。
会社閉鎖と事業承継の違い
会社閉鎖は法人格を消滅させる手続きですが、事業承継(M&A)は事業や会社を第三者に引き継ぐ方法です。事業承継では、従業員の雇用維持、取引先との関係継続、事業価値の換金化などが可能となるため、単純な閉鎖よりも社会的・経済的メリットが大きい場合があります。閉鎖を決定する前に、事業承継の可能性も検討することをお勧めします。
解散・清算(通常清算)
- 債務超過でないこと(資産が負債を上回っている状態)
- 株主総会で解散決議が可能であること(特別決議:議決権の2/3以上)
- 清算人を選任できること(通常は取締役が就任)
- 債権者への弁済が可能であること
- 株主総会での解散決議:出席株主の議決権の2/3以上の賛成が必要
- 解散・清算人選任登記:解散決議から2週間以内に法務局へ登記
- 官報公告:解散公告を官報に掲載(債権申出期間は2ヶ月以上)
- 債権者への個別催告:知れたる債権者には個別に通知
- 財産目録・貸借対照表の作成:株主総会での承認が必要
- 残余財産の分配:債務弁済後、残余財産を株主に分配
- 清算結了登記:清算事務完了後、2週間以内に登記
- メリット:法的に確実な会社消滅が可能。残余財産を株主に分配できる。税務上の繰越欠損金を活用できる場合がある
- デメリット:手続きに最低2ヶ月以上かかる。官報公告費用(約3万円)等のコストが発生。一度解散すると事業再開が困難
適用条件
必要な手続き
メリット・デメリット
特別清算
- 債務超過の疑いがある株式会社であること
- 清算の遂行に著しい支障をきたす事情があること
- 債権者の協力が得られる見込みがあること(債権者の2/3以上の同意)
- 解散決議と清算人選任:通常清算と同様に株主総会で決議
- 特別清算開始の申立て:裁判所に申立て(清算人、債権者、株主等が申立可能)
- 財産目録等の提出:裁判所に財産状況を報告
- 協定案の作成:債権者との間で弁済率等を定めた協定案を作成
- 債権者集会での可決:出席債権者の過半数かつ債権額の2/3以上の同意
- 裁判所の認可:協定の認可を受けて実行
- 清算結了:協定に基づく弁済完了後、裁判所に報告
- メリット:破産手続きより簡易で費用が安い。会社主導で手続きを進められる。債権者との協議により柔軟な解決が可能
- デメリット:債権者の同意が必要(2/3以上)。裁判所の関与により手続きが複雑。全額弁済できない債権者が発生
適用条件
必要な手続き
メリット・デメリット
破産手続き
- 支払不能または債務超過の状態にあること
- 特別清算での解決が困難な場合
- 債権者との協議が成立しない場合
- 破産手続開始の申立て:裁判所に申立書と必要書類を提出
- 予納金の納付:裁判所が定める予納金(20万円以上)を納付
- 破産管財人の選任:裁判所が弁護士を破産管財人に選任
- 財産の換価処分:破産管財人が会社財産を売却・換金
- 債権者集会:破産管財人が財産状況を報告
- 配当:債権者に法定の優先順位に従って配当
- 破産手続終結:配当完了後、裁判所が終結決定
- メリット:法的に確実な債務整理が可能。債権者平等の原則により公平な処理。取締役の責任追及リスクが軽減される場合がある
- デメリット:予納金等の費用が高額(最低20万円以上)。手続きに6ヶ月以上かかることが多い。会社の信用が完全に失われる
適用条件
必要な手続き
メリット・デメリット
休眠会社化
- 一時的に事業を停止したい場合
- 将来的に事業再開の可能性がある場合
- 清算費用を節約したい場合
- 許認可を維持したい場合
- 異動届出書の提出:税務署に「休業」の異動届を提出
- 都道府県税事務所・市区町村への届出:事業税・住民税の休業届
- 社会保険の手続き:従業員がいない場合は適用事業所の全喪届
- 許認可の確認:業種により休眠中の許認可維持要件を確認
- 最低限の税務申告:法人住民税均等割(最低7万円/年)の申告納付
- メリット:事業再開が容易。清算費用が不要。許認可を維持できる場合がある。法人格が残るため信用情報が維持される
- デメリット:毎年の法人住民税均等割(最低7万円)が必要。12年間登記がないと解散したものとみなされる。決算申告義務は継続
適用条件
必要な手続き
メリット・デメリット
会社閉鎖時の重要な注意点
- ⚠ 税務申告:解散事業年度、清算事業年度の確定申告が必要
- ⚠ 社会保険:未払保険料の精算、被保険者資格喪失届の提出
- ⚠ 労働関係:従業員への解雇予告、退職金支払い、雇用保険手続き
- ⚠ 取締役の責任:債務超過での解散は、取締役の損害賠償責任が問われる可能性
- ⚠ 許認可:廃業届の提出、許可証の返納が必要な業種があります
会社閉鎖にかかる期間と費用の目安
通常清算
登記費用、官報公告費、専門家報酬等を含む
期間:3~6ヶ月
特別清算
裁判所費用、予納金、弁護士費用等を含む
期間:6~12ヶ月
破産手続き
予納金、破産管財人報酬、弁護士費用等
期間:6~12ヶ月
休眠会社化
届出費用、年間の法人住民税均等割
期間:即日可能
通常清算の標準的なスケジュール
解散決議・登記(2週間)
株主総会での特別決議、解散・清算人選任登記
債権者保護手続き(2ヶ月以上)
官報公告、債権者への個別催告、債権申出期間
残務整理(1~2ヶ月)
資産売却、債務弁済、従業員対応、契約解除
清算結了(2週間)
残余財産分配、清算結了登記、税務申告
まとめ
会社の閉鎖は、経営者にとって重大な決断です。閉鎖方法の選択は、会社の財務状況、債権者との関係、将来の事業再開の可能性などを総合的に考慮して決定する必要があります。特に債務がある場合は、取締役の責任問題も発生する可能性があるため、早期の専門家相談が重要です。
また、単純な閉鎖だけでなく、M&Aによる事業承継の可能性も検討することで、従業員の雇用維持や事業価値の換金化など、より良い選択肢が見つかる場合があります。会社閉鎖を検討される際は、税理士、弁護士、司法書士などの専門家に相談し、最適な方法を選択することをお勧めします。
※「当事務所は、登記申請や裁判所提出書類の代理は行いません」
※「登記申請や破産申立は提携士業が行います」